“I have never seen anyone who was able to put an entire hall of people in a state verging on trance the way Cab Calloway did…” Michel Leiris
レコードや CD で聴いているだけではわかりませんが、サウンディーズなど昔の映像を見ると、踊るジャズメンって結構います。
Jimmie Lunceford 楽団の映像では、サックス奏者2名が突然、楽器を持ったまま前に出てきてShim Sham を披露! Shim Sham とはタップやスウィングダンスのフロアで今も踊られているわりと有名なステップ。バンドマンでありタップダンサーでもあった Willie Bryant と Leonard Reed が作ったステップです。
タップといえば Slim Gailard も名手。音源からでもその音を聴くことができます。Lucky Millinder もダンスが好きで、演奏の間によく踊っていたそうです。
女性ボーカル、Velma Middleton のスプリットにも脱帽です。バレエダンサーのように180度前後まっすぐに足が開く!しかもそのままぐるぐる回る!!あの声からはもっとクールな女性を想像していたんですが…。ヴェルマはサッチモのお気に入りヴォーカルで、二人のかけ合いはほんとうに最高!なのですが、当時の批評家は太った黒人女性がスプリットをすることに強く不快感を示していたとか。そのせいもあるのか、あまり正当に評価されていなかったようです。
踊るジャズメンの代表といえば、Cab Calloway。頭を振り乱して指揮をしたり、でたらめな中国語で歌ってみたり…コミカルな印象が強いキャブですが、彼のステップ、体の動きの美しいこと!代表作のひとつである Betty Boop のアニメ「Minnie the Moocher」にはキャブの体の動きにそっくりなお化けが登場します。これはキャブの身体の動きをトレースして反映させているのだとか。そしてキャブといえばズートスーツですが、リズムに合わせて裾やチェーンがスウィングして…まさに全身でスウィングしているんですね。そんなエンターテイメント性たっぷりのステージは、やはり批評家筋からは高く評価されていなかったようです。でもジャズの本質とは、「聖なるトランス状態を人々の意識と体に導入すること」と提唱していたシュルレアリストの詩人・作家であり、ジャズに造詣の深かったミシェル・レリスは「キャブ・キャロウェイほど巧みにすべての観客を引き込み、トランス状態へと導けるジャズメンは他にいない」と大絶賛しています。
ダンスではありませんが、当時の楽器奏者は大げさに立ち上がったり、ホーンを吹きながら左右に振ったり、スティックをジャッグルしたり…ヴォーカルを取るだけでも、歩き方、身のこなしのすべてが魅せる。そうしたパフォーマンスがジャズを楽しく盛り上げていたに違いありません。
戦後、ジャズがクールへと移行して、徐々にそうした演奏スタイルが主流から消えていき…ホットジャズの終焉とともにホットな体も消えていったのでしょうか。
ちなみに冒頭の Jimmie Lunceford は元体育の教師だったとか。ミュージシャンになってからも楽団内でバスケチームを作り、Count Basie のチームやダンサー達と対戦していたそうです。やっぱり体力あるんですね〜。
Jimmie Lunceford orchestra 1936
9:00辺りから、シムシャムが登場!
Cab Calloway – “Betty Boop-Minnie the Moocher”