いま、黒人ダンサーが少ない理由

 もともとハーレムの黒人文化から生まれたリンディホップですが、今のダンスフロアには圧倒的に白人が多く、黒人ダンサーの割合はとても少ないです。NYで行われた Basie 生誕100周年、Savoy Ballroom のオープン80周年記念など大きなイベントには当時のダンサーや縁の人々が集合し、そして若いダンサー達も出席するのですが、若い世代の黒人ダンサーがあまりに少なく先輩達も悲しんでいるようです。

 音楽同様、今の若いコ達はスウィングよりもヒップホップなどのストリートダンスにいってしまう。それは時代の流れで仕方のないことなのかもしれませんが、リンディホップが若い世代に受け継がれていない理由としてこんな話を耳にしたことがあります。

 リンディホップがブームの時期には、舞台や映画にもよく登場したのですが、当時のショービジネス界の通例どおり、黒人ダンサー達はたいていが使用人役など、社会の下層として登場していました。例えばリンディホップの金字塔といわれる画期的なルーティンを披露した映画「Hellzapoppin’」では、ダンサーやミュージシャン達はみな運転手やメイド、コックなどの役柄です。また Duke Ellington のサウンディーズ「Cotton tail」では、お金がなくて(もしくは別の理由で)ダンスホールに入れない若者達が、ホールから漏れ聞こえてくるエリントンの音楽に合わせて踊るというシチュエーション。

 またマルクスブラザースの「Day at the Race(マルクス一番乗り)」や Hellzapoppin’ などハリウッド系メジャー映画は、南部など人種差別の激しい地域では黒人の登場シーンをカットできるように、彼らの登場シーンは本編とは関係のない設定で製作されていたそうです。

 当然といえば当然ですが、映像には当時の社会が反映されています。当時をリアルに知っている世代にとっては、その忌まわしい歴史の断片をいまの子供達に見せたくない。アメリカの黒人達の歴史と切っても切れない関係にあるからこそ、リンディホップというものを封印してしまおう、そんな流れもあるのだそうです。

 今ではコンペなどの場で当時のスタイルを再現しようとコックやメイドの格好をしている白人ダンサーがたまにいます。黒人っぽく見せたい、ということで顔を黒く塗ってステージに出ようとしたなんていう話も聞きます。そして当然、それに対して不快感を抱く人々もいます。こういう問題はとてもセンシティブ。門外漢としては単純に「封印なんて、そんなのもったいない!」と思ってしまったりするのですが…。リンディホップというダンスを選び、踊るならば、そうした背景も含めて知っていく、ということが必要なのかもしれません。

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