ダンスな曲名

 ジャズの歴史は、ダンスの歴史。とくにスウィング以前の時代は、ダンスのために曲が作られ、ダンスの名前がそのまま曲名になることも少なくありませんでした。有名な 「Charleston」 をはじめ「Cake Walk」 「Black Bottom」 「Shag」 「Shimmy」 「Peckin’」 「Suzie Q」 「Mess Around」 など、曲名や歌詞の中で見かけるこれらの言葉はみんなダンスの名前です。
 ラグタイムの時代には、「Turkey Trot」 や 「Grizzly bear」、「Bunny Hug」 など動物の名前を冠したアニマルダンスが流行し、そのための曲が作られました。

 ダンスソングの先駆けといえば、ピアニストで作曲家、そしてダンサーでもあった Perry Bradford 。彼は南部の黒人達が踊っていたステップを自分のショーに取り入れたり、ステップを紹介する曲を作り、その楽譜を大衆向けに売っていたとか。それがきっかけで、一部の地域で流行していたダンスが、全国的に広まっていくこともありました。

 例えば、チャールストンの頃に同じく大ブームになったという Black Bottom を紹介している曲。

The Original Black Bottom Dance (1919年)

Hop down front and then you Doodle back, (前にホップして、後ろへスライド)
Mooch to your left and then you Mooch to the right (左へぶらつき、右へぶらつき)
Hands on your hips and do the Mess Around, (手は腰に当てて、腰を回して)
Break a Leg until you’re near the ground (足を開いて、地面につくまで)
Now that’s the Old Black Bottom Dance… (これがオールドブラックボトムダンス…)

 そしてレントパーティなどで盛んに踊られていたという Messin Around も Perry Bradford 作。後に Ethel Waters の歌で有名になります。

Messin’ Around (1912年)

Now anyone can learn the knack, (さて今じゃ誰もがコツを習える)
Put your hands on your hips and bend your back, (手を腰にあてて、背中を曲げて)
Stand in one spot nice and light, (ほどよく、バランスよく立って)
Twist around with all your might, (全力で腰をツイストさせて回転させるんだ)
Messin’ round, they call that messin’round. (これがメスアラウンド…)

 どちらも歌詞自体がステップの解説になっています。ダンス教室もなかった時代、人々はこうした曲を聴きながらダンスを覚えたそうです。
 
 「Jazz Dance Music」 という、1920年代〜40年代のダンスにちなんだ曲ばかりを集めたコンピレーションCDには、そんなダンスの曲がたくさん収められています。「Charleston」 の大流行を受けて二匹目のどじょうを狙ったという、「Baltimore」 という曲も。
 作曲家達は新しいダンスを考え名前をつけて曲を作り、そのダンスを流行させようとしたとか。フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのダンスで有名な 「The Carioca」 や 「The Continental」、またベニー・グッドマンの演奏でも知られる 「Jersey bounce」 や 「The Hucklebuck」 もそうした流れから生まれた曲だそうです。

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