今では Tuxedo Junction や T’ain’t What You Do がかかると Shim Sham の時間になるわけですが、フランキーの本によると、もともとシムシャムというのは特に決まった曲でやっていたわけではないようです。じゃあ、どんな曲でもいいのか?というとそういうわけでもありません。
曲にはそれぞれ構成があります。ジャズのスタンダードな形式は、8小節×4=32小節を1コーラスとして、コーラスの繰り返しで構成されています。1小節は4拍、つまり4カウントにあたるので、これをダンス的に言いかえると8カウント×4を4回で1コーラスとなります。実際に Tuxedo Junction を聴きながらカウントしてみるとわかりますが、8カウント×4がメロディの一区切り(1フレーズ)で、それが4回繰り返されます。ちなみに1フレーズ、2フレーズと繰り返された後、3フレーズ目だけメロディが異なり、4フレーズ目で元に戻る、A-A-B-A という構成になっています。
シムシャムは、the Shim Sham、the Push and Crossover、the Tack Annie、the Half Breakと4種類のステップをそれぞれを4回ずつ(3回+ブレーク、Half Breakの場合はブレークと8カウントずつ交互にやっていますが)繰り返しているので、まさにこのスタンダード形式にばっちり合います。当時の音楽に合わせて作られたステップなので、当たり前といえばそうかもしれませんが、でもダンスフロアでかかる曲が、みんなそういう構成になっているかというと、そういうわけではありません。
ブルースの主な形式は12小節を1コーラスとして、4小節×3フレーズの構成(他に8小節や16小節を1コーラスとする曲もあります)。ダンス的に言うと、8カウント×2を3回繰り返します。例えばおなじみの C-Jam Blues 、これがそうです。この曲でシムシャムをやってみるとわかりますが、当然コーラスとずれていってしまいます。
T’ain’t What You Do はスタンダード構成なのですが、1コーラス目の終了後、8小節(8カウント×4)のオマケがついています。When I was a kids…と歌が入るところ。あそこでみんな、時間を持て余してしまいます。
ではなぜこの曲がシムシャムの曲になったのかといえば、おそらく昔、フランキーとチャズがシムシャムをベースにしたパフォーマンスをこの曲でやったからではないかと思います。その時はシムシャムを1コーラスやってからオマケの部分で愉快な小芝居を挟み、その後ジャズステップに戻るという構成だったのでいいのですが、その事情を知らないと、あそこで困ってしまうわけです。(事情を知ってる人は、本家を真似て小芝居をしたりします)
だから例えばライブでの演奏中、みんなでShim Shamをやろう!という時には、まずはその曲の構成を見(聴き)極める必要があります。曲のどこから入るのか、次のコーラスの頭はどこか、オマケはないか、そういうことを意識すると、曲とばっちりシンクロできるわけです。これはビッグアップルやリンディコーラスも同じ。こう書くとなんだか難しい気もしますが、曲を聴きながらだとわかりやすいと思います。かのフランキーもコリオグラファーとして駆け出しの頃は、曲を何度も繰り返し聴いて、構成を理解していったのだとか。
よく音楽に合わせて踊る、というと曲のムードや音楽からのインスピレーション…的な話になりがちですが、曲の構成というのをある程度、理解して意識することも大切だと思います。スタンダードな構成とはいっても、実際にさまざまな曲を聴いてみるとオマケがついたり、不規則な展開になっている曲が少なくないことに気づきます。パフォーマンスの振付はもちろん、普段踊る時もこの辺りを意識できると、いいのではないかなと思います。