ナンバーワン・バンドは?

 サヴォイ・ボールルームの看板でもあった、Battle Of the Band。これは2つのバンドを競わせるバトル形式のライブです。バトルには当時人気のあったバンドが次々にブッキングされました。たとえば Jimmy Dorsey vs Benny Carter。このアルトサックスバトルでは、サックスの “king” と言われていた Jimmy Dorsey がBenny Carter の演奏に衝撃を受け、クラリネットに持ち替えたなんていうエピソードもあります。勝敗は公式に決められるわけではありませんが、後日発行された音楽雑誌には、どちらがより観客に支持されていたか、どちらが優勢だったのかと書かれていたそうです。

 サヴォイの、そしてジャズの歴史に残る一戦は、1937年3月11日の Benny Goodman vs Chick Webb。どちらのバンドも人気の絶頂期にあり、世界のキング・オブ・スウィングとサヴォイのキングによるバトルとあって、なんと数千人もの客が詰めかけたそうです(7000人と書いてある記事もあれば、25000人とある文献も!いずれにせよ巨大なサヴォイのキャパシティをはるかに上回っていたことは確かです)。

 Gene Krupa と Chick Webb のドラム対決にくわえて、同アレンジの曲が多いことから技量を比較しやすいなど、見どころ満載。さてその結果は…アメリカの人気ジャズ雑誌メトロノームには「CHICK WEBB DESEATS BEN GOODMAN」との見出しが掲載されました。あるダンサーの話では、Chick Webb のドラムを前にGene Krupa が諦めたようにかぶりを振っていたとか。ただ頭上のハエを振り払ってただけかもしれませんが…。

 王者 Chick Webb が一度だけ負けを喫した相手、それが Count Basie でした。1938年1月16日、Ella Fitzgerald を擁する Chick Webb と、Billie Holiday が歌う Count Basie の対決が実現しました。

 この対戦には裏話があります。まだそれほどハーレムでは知られていなかった Count Basie のレコードを聴いたサヴォイボールルーム常連ダンサーの一人が Basie の強烈なスウィング感に興奮、「今度ばかりは Chick もやばい」と発言します。そしてそれを Chick Webb が偶然聞いてしまい…癇癪持ちだったといわれる Chick Webb は激怒、ダンサー達のことを口汚く罵ったそうです。「俺の音楽にダンサーなど必要なものか」その言葉を今度はサヴォイの顔役が耳にしてしまいます。ダンサーのパトロン的存在でもあった彼は、それならば Chick Webb の演奏中には踊るな、とダンサー達に命令したとかしないとか。
 バトルが始まり、Chick Webb は狂ったようにハイスピードの演奏を繰り出します。しかしぴくりとも反応しないダンスフロアにさすがの Chick Webb も慌てたらしく、その様子を見たサヴォイのオーナーが二人をとりなし、めでたく仲直り。始まりこそごたごたしたものの、双方素晴らしいパフォーマンスの応酬となり、ダンサー達は両者の演奏を思う存分、踊って楽しむことができたようです。そして後日メトロノーム誌には、「BASIE’S BRILLIANT BAND CONQUERS CHICK’S」と掲載されました。(ただしサヴォイ・ボールルームで行ったアンケートでは Chick Webb が優勢だったとか)

 じつはこのバトルが行われたのは、Benny Goodman の有名なカーネギーホールコンサートと同じ日。カーネギーホールでのジャムセッションによばれていた Count Basie の替わりに、サヴォイでは最初、Duke Ellington がピアノを弾いていたなんていう話も。コンサート終了後、Benny Goodman はじめ、Mildred Bailey やWillie Bryant、Red Norvo、Teddy Hill らもサヴォイに駆けつけたようです。

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